2010.5.28 廣瀬, 豊坂:パンデミックシミュレーション, 日本信頼性学会誌, Vol.33, No.6, pp.270-277 (2009.6, 平成21.6) が日本信頼性学会2009年度優秀記事コラム賞に選定されました 。

 
 
選 定 理 由
 

 
 

優秀記事コラム賞 講評
記事名:パンデミックシミュレーション
    日本信頼性学会「信頼性」2009年,Vol. 31,No. 4,pp. 270〜277
著者名:廣瀬 英雄 氏,豊坂 裕樹 氏


 本記事は特集「シミュレーションと信頼性」の中の一編として執筆されたものである.奇しくも2009年4月メキシコにおいてswine flu の流行が認知され,2009年6月12日世界保健機関(WHO)より世界的流行病(パンデミック)と宣言され,それ以降,警戒水準がフェーズ3から順次6に引き上げられた.日本では当初新型インフルエンザ感染症(感染症予防法第6条第7項)と見なされ,感染者は強制的に入院し隔離の対象となったが,2009年6月19日厚生労働省は,季節性インフルエンザとほぼ同等の扱いにしている.2009年11月6日WHOは日本の入院率(人口10万人当たり2.9人)及び死亡率(人口100万人当たり0.2人)が主要国で最も低いことが報告されている.
 本記事は,パンデミックが起こるような状況を,マルチエージェントシミュレーション(MAS)を用いて,仮想都市による条件設定をしてシミュレーションを行っている.過去の疫病伝染に使用された微分方程式モデルを拡張したケルマック・マッケンドリック(SIR)モデルの条件を追加した(SEIR)モデルとMASの整合性が確認され,MASで得られたパラメータをSEIRに用いることで,計算コストのかかるMASの欠点を補うことの可能性が検証された.さらに,MASとSEIRを組合せたハイブリッド法(MADE)による評価結果は,パンデミックの最終的な感染者数及び死者数を検討するのに十分であり,計算コストも圧倒的に少なくて済むことが示されている.
 パンデミックを阻止する方法として,人との接触機会の多い職場や学校を閉鎖することが有効であることが提示されている.
 投稿後に発生した swine flu に関してパンデミックの広がりのシミュレーションを追加され簡単に終息しないことを示唆している.初期の疫病伝染は情報量が少なく精度が期待できないが,日々の情報からの予測で注意を促し感染の拡大を減じる手段として期待されている.
 新型インフルエンザはますます脅威を増している.今後初期予測の精度向上及び今迄の実績を踏まえた新たな手法などを紹介いただけることをさらに期待している.
 廣瀬氏と豊坂氏は,学識と長年の経験から,上記のような内容で8ページにわたりシミュレーション技術による検討結果を体系的に整理し,さらに swine flu の発生を持って追加検討を加筆していただき貴重な記事となった.その結果,高い評価を得て,2009年度優秀記事コラム賞に輝いた.信頼性に関係する技術者だけでなく,広く社会の安全性に関わる諸氏にとって貴重な指針を示してくれるものであり,この機会に再読されることを薦める.