九工大新聞コラム 廣瀬英雄 
2007年度4号 10/15/2007 

地球温暖化問題にどう向き合うか

社会全体は大きく変動しているようであっても、一人の人生という窓から社会を見ると社会全体は停まっているようでもある。無垢の時にはただ遊び、知恵がつき始めると社会常識に染まっていきながらももがいて、適齢期になると連れ合いを見つけ子を育てながら、また子からも教えられ、気がつくと世代が代わっていくだけという単純な一生を終わっていく。だから、生を受けたからには、思いっ切り遊び、思いっ切りもがき苦しんで自分を見つめ、そして大切なことを見つけて次に伝えよ、と君たちに言ってきた。しかしこう思えるのは、宇宙に浮かぶオアシス地球がたぐいまれな自然環境をゆるぎなく与えてくれるという前提があってのことである。ところが、それが危うい。実は君たち世代の次はもうないかもしれないと言われるほど地球温暖化問題は深刻である。つい1年前までは遠い100年先のことと関心は薄かったが、事の重大さは段々多くの人にも知れ渡ってきた。
 私自身、今までもうっすらとは気にはしていたが、深刻さがどの程度のものか真剣に調べ始めたのは昨年の今頃である。きっかけは西沢ら[1]や月尾[2]である。それから、IPCC[3]や海洋研究開発機構[4]などのレポート、Climatic Change [5]などの学術的ジャーナル、New York Times, CNN, BBC newsなどのメディアやさまざまな本を読み、そしてゴア主演のDVD[6]を買って何度も観た。Michael Crichtonのように、科学的でないと反論する著書[7]も一方で読んだが、深刻さは確信できた。
 では、次の世代に伝えられることとして私には何ができるだろうか。大学にいる教育者としてまた研究者として何ができるだろうか。そう考え、学生の皆さんにも知識を共有してもらうため、分かりやすいゴアの映画を観てもらうことを考えた。まずはできるところからということで、小規模ではあるが4月の合宿研究の夜に重要な部分を上映した。環境問題を考えるということだけでなく、理解しやすい英語、極めて上質なプレゼンテーション技法の習得など教育的効果も十分ということもあった。今年に入っての環境の激変もあってか、マスメディアが温暖化問題を大きくとりあげ、この問題の重要性については広く浸透したと思われる。6月には東大でも上映会が開かれている[8]。
 先日、ノーベル平和賞がゴアとIPCCに与えられた。理解できることである。環境問題を種にした国際紛争は十分に考えられるからである。空気(酸素)と水(真水)は永遠にあると思いがちであるが、絶妙なバランスの上で恵みを受けているだけで、生命に関わるほどにそのバランスを崩されるとコスト0の意識はなくなるどころか、力で奪い合う起こる可能性がある。
 日本の大学は、財政の縮小から法人化になり、競争的資金を獲得しながら社会に還元できる大学として、その存在意義を見つけ出そうと歩み始めた。そのための仕組みもいくつか示されてきた。大学はその枠組みで生き方を考えがちになる。産業界は日本の経済的成長という立場からのパートナーとして大学をとらえがちになる。だから、教育や研究もその枠組みの中で考えがちになる。しかし、そういう幸福な考え方ができるのは先に述べたとおり、大きな前提があってのことである。今まで行ってきた研究ももちろん大切であるが、この前提のことも考えなければならない。大学には将来のことを考える時間が比較的多く与えられている。大学にいる私たちは、この大きな前提がくずれないように、科学的に工学的に何ができるかを考える必要がある。今後の人類にとって大きなチャレンジが待ち構えている。情報工学部は、今までも人の移動によるエネルギー消費をなくすような貢献をしてきた。今後も、更に少ないエネルギーで人類の経済活動が維持できるような、情報系らしい貢献の仕方を模索すべきである。そのことを考えながら貴重な学生生活を送って欲しい。

参考文献:
[1] 西沢潤一ら、悪魔のサイクルへ挑む、東洋経済新報 (2005)
[2] 月尾、縮小文明への展望、東大出版会(2006)
[3] http://www.ipcc.ch/
[4] http://www.jamstec.go.jp/j/
[5] http://www.springer.com/west/home/geosciences?SGWID=4-10006-70-35607455-detailsPage=journal|description
[6] An Inconvenient Truth, Al Gore, Davis Guggenheim, DVD (2006.11)…Academy受賞作品
[7] Michael Crichton, State of Fear, New York Times Bestseller, Avon (2004)
[8] http://www.ir3s.u-tokyo.ac.jp/tigs/news/news_detail.php?no=9