九工大新聞コラム 廣瀬英雄 
2006年度1号 4/4/2006 

35040時間

 新しく情報工学部の学生となった皆さん、大学は皆さんを心から歓迎します。これからの何年間、人生で最も心に残る時期をここで過ごすことになります。悔いのない大学生活を過ごされるよう希望して、メッセージを送ります。
 研究室にはいろんな学生が部屋に尋ねてきます。定期試験でも再試験でも不合格で「レポートを出しますので何とか合格させて下さい」と頼み込み、とても熱心にやったとは思えない内容でも「出したのだから合格させて下さい」と要求する学生。「69点ですが、あと1点上げてもらえると、GPAが良くなるのでお願いします」と頼む学生。卒業査定という重要な関門にかかっているのに「この日は外せない用件がありましてできませんでした」と言う学生。よく聞けば、日程はずらせますし、あるいはしなくてもいい用件です。彼ら一つ一つのやり方は首尾よく成功したとしましょう。しかし、彼らは二つのことを失っています。一つは、きちんと努力して自分の血となり肉となる実力を身につける機会を放棄したことです。しかし、これ以上に大切なことは、彼らは一時的にその場をごまかし、現実から逃避しようと自分の心を欺いていることです。
 今まで、学校というかなり狭い社会の一部で皆さんは生活してきました。そこでは、狭い規範のもとで行動してきたと思います。画一化された行動を強いられ、窮屈な思いをしたかもしれませんし、あるいは何も考えず敷かれたレールの上を走るのは楽だったかもしれません。大学も少しは規範がゆるくなりますが比較的閉じられた社会であることは今までと傾向は変わりません。その中しか見ず、その中だけのルールや行動パターンだけに従って結果を出す傾向に陥りがちです。社会が緩やかに動いて変化が少ないときにはゆりかごの中のような生活から抜け出しても対応できる時間はあるでしょう。しかし、今は社会が大きく変動していっていますので、これからの社会の状態に適応できなくなることも考えられます。例えば、地球は未曾有の規模で(社会的に)グローバル化が進んでいます[1]。日本の中だけの規範で物事を考えていては、21世紀の社会で自分の進むべき道や進むことのできる道を見失うことになりかねません。それと、(物理的にも)思わぬスピードで地球が病み始めています[2]。今から大学の中で身につける知識や智慧を使い、これらの課題に立ち向かっていかなければなりません。
 このような大きな問題に立ち向かうとき、自分に何ができるか、どのような形で貢献できるかを、とことん突き詰めていかなくてはなりません。自分をごまかして生きていく時間などないのです。考え込んでいてもダメで、核心に直接触れながらゴールに早くたどり着かなくてはいけません。一時的にその場をしのぐことに神経を使わず、自分を大きくすることに時間を使ってみませんか。4年間って、わずか35,040時間なのです。
 参考文献:
[1] T. Friedman, The World Is Flat, Farrar, Straus and Giroux (2005)
[2] 例えば、Time, “Special Report Global Warming”, 4/3/2006