九工大新聞コラム 廣瀬英雄 
2005年度1号 3/31/2005 

君たちには大きな未来がある

 先日、ある大学の先生が「昔は大学卒と言えばそれだけで将来がある程度見えて、どう努力すればよいか分かった。選ばれた人が入学してきたのでほっておいてもよかった。しかし、これからの不透明な時代、若者が何を身につけておけばよいのか分からない。また、多くの学生が大学に入ってきて、技術者とは何かというような、導入教育までやらなければならない時代に入ってきた」と言われた。それに対して、ある年配の企業の方が「不透明と言われるが、大体右肩上がりの高度成長期の高々数10年だけが見通しがよかっただけであって、歴史上見通しがつく時代がそんなにありましたか」と切り返された。大学を出ても生涯給与を保証される時代ではなくなってきたと嘆くが、逆に、大学を出て大企業に入って社長にまでなったとしても、年収が5000万円を超えることもそんなに多いことではなかった。大きな変化がないのである。しかし、最近話題になっている三木谷浩史さん(楽天会長)の昨年の年収は11億円である[1]。日本IBM社長でも6000万円程度であるから、若くして大変な変化を経験できる時代が訪れたと考えることもできる。もちろん、持てるものと持てないものとの格差が広がり、うかうかしているとその日暮らしになってしまうことも起きてくる。
 企業は「人、モノ、金」と長い間言われ、最近はそれに「情報」が加わっている。これらを合理的に支配できる方法が大企業という形であった。「情報」にもコストがかかっていた。しかし、「情報」に対するコストが最近劇的に変化してきていることから、これからの企業組織の形態はすっかり変わる可能性があると指摘されている[2]。これからの経済社会で は、知識(情報)をベースとする仕事の割合がますます拡大していく。そして、社員が判断力の要る決定を自分で下すことができるような十分な情報をもつことができる。自分で決定できれば、モチベーションが高まり、創造性も増し、柔軟性もできる。そのような分散化された組織形態の中で、各人がもてる力を十分に発揮できる機会が与えられるのである。最終的には、ビジネスに人間 の自由意思を取り入れる民主化も考えられる。
 2005年度に新しく入学してきた学生の皆さん、君たちは今そのような時代の入り口に立っていることをラッキーだと思いませんか。なぜなら、そのような時代をリードできるキーを持つ「情報工学部」に入学したからです。情報科学は、今まで人が担っていた仕事の一部を効率的に正確に行い、均一大量生産時代での比較的単純な情報化時代をくぐり抜け、より個性的で複雑なことにも対処できるようになり、人を助け、人を癒すように成長してきました。そして、21世紀に入った情報科学は、大量のデータが高速に移動するだけでなく、データのエッセンスが抽出され、必要とするだけの情報が手に入るようになる社会を創り上げます。そしてそれは生命に深く関わるようになってきます。人が生きる喜びを自ら享受でき、人々にも非常に低いコストで与えられる、そのような時代が創れるのです。元気に生きていきましょう。
参考文献:
[1]「大公開!他人の給料袋」(プレジデント、2004.12)
[2] Thomas W. Malone (原著), 高橋 則明 (翻訳)、「フューチャー・オブ・ワーク」Harvard business school press(講談社)2004