九工大新聞コラム 廣瀬英雄 
2004年度2号 6/30/2004 

自分を変えよう、人は変わる

 大学3年生の秋から一流企業のダイレクトメールがひっきりなしに届いた。合宿から帰った日にはアパートのドア前に置かれた資料のヤマをどけないと入れないほど。ゼミの日は毎週OBがリクルーターとしてやってきた。あっという間に一流企業ばかり3社から内定を得た。友人とは、各社の採用担当者の名刺を見せあい、六本木で何を食べた、拘束旅行で温泉に缶詰めにされて楽しかったと自慢しあっていたA君。今から14年前のことである。その甘い世代を、(自己分析に3年間かけるといったプロセスを踏んでいる)今の世代の学生の一人B君はこう見る。面接官にその世代がいましたが、魅力を感じたことはありませんでした。見通しが甘いし、将来の目的がない。ぼくらとは、働くことへの覚悟の度合いが全然違います[1]。環境変化がその時代の学生の姿を変えている典型例である。
 大学はこの4月から独立法人化された。当面従来と変わらない財政的支援を国から受ける(つまり、大学間の支援の格差は従来と変わらない)が、中期目標達成度による大学評価によって支援の格差が顕在化する。今までは、どの国立大でも一律に扱われていたため、与えられた一定の予算配分をどう公平に使うか、既得権をどう保持するかに神経をとがらせていた。業績はもっぱら教員個人の動機付けにまかされていた。親から与えられた一定の小遣いを自分なりにどう使おうかといった発想しなかったのである。法人化されると、予算は組織単位で異なってくる。努力して改善が見られた組織には相応の予算支援が継続されるが、そうでない組織には厳しい事態が待っている。従って、九工大という組織全体で、全教職員と学生が皆で協力しあって、在席する学生だけでなく将来入学する学生のことも考えて、九工大を良くしていかなければ大学の未来はない。教員だけからの視点ではなく、入学する学生、在席学生、巣立った卒業生、企業をはじめとする社会など、多方面から組織の健全性を常にチェックする機能がなければならない。例えば、学生にとって身近なチェック機能は授業アンケートである。この学期からアンケートの結果は学部内全教職員および学生に公開されることになる。
 自分をとりまく環境の変化は自分自身で把握するべきだし、自分にしか見えないもの。たとえば売り上げ目標を達成できなかったという時、そこには必ず理由があり現状把握のズレがあったはず。素直に「ズレていた」と認め、自分自身で間違いを発見し修正するしかない。業績が上がらない原因を探す時、最も疑ってかかるべきは自分自身。私たちの競争相手は競合他社ではないし、他業種でもない。それはただ一つ、時代の変化。そのためには相手の立場になるしかない。頑(かたくな)に自分の価値観にしがみついてその場から動かずにいるなら、その分のズレが起きている[2]。
 さて、先ほどのA君。彼も自分を変えようと思えば変えられたはずなのに、どうもしがみついた環境に翻弄されて時代の波から取り残されたようだ。左遷ともとれる支店の窓口担当を転々と回された挙げ句、辞めている。ところが、最近C君に会って驚いた。人生のどん底まで落ち込み、もうはい上がれない位に意気消沈して、暗い表情で進むべき道に悩んでいた彼。その顔が明るくなっていた。話して分かった。時代や環境の変化についての洞察が深くなっていた。時代や環境の中での自分の位置を正確に判断できるように成長していたのである。現実を直視し、相当の決意で自分を変えようと思ったことがうかがえる。
 時代とともに大学環境も変わった。後は人が変わらなければならない。
参考文献:
[1] http://www.asahi.com/job/special/TKY200404130189.html
[2] http://www.asahijobnet.com/column/index.asp?back=26