九工大新聞コラム 廣瀬英雄 
2003年度2号 6/23/2003 

就 職

 平成2年度には81%だった大学卒の就職者率が平成12年度には56%となっている[1]。その中で、就職を希望する学生の内定率は年々下がっており、平成11年度の10月時点での内定率は64%(翌年3月には90%程度の見込み)となっている[2]。一方、九工大の就職内定率([3]によると、学部生で90%以上、大学院生で95%以上)は、全国平均に比べて抜群に高く、九州管内の国立大の中の工学部系でもトップクラスの座にある。就職を希望する学生の皆さんにとって九工大に在席していることの何と幸運なことか。100年の伝統を持つ九工大と前世紀を築いてこられた諸先輩からの恩恵に感謝すべきである。しかし、この傾向が永遠である保証はどこにもない。むしろ、着実に変化していることを感じ取る必要がある。そういう中で、ここ1-2年、入学してくる学生は世の中の変化に敏感に反応しており好ましくもあるし頼もしい。今の4年生とか大学院2年生の学生もその厳しさを今肌で感じ取っているだろう。
 厳しい就職状況の中で、学生の皆さんは、企業面接などの就職試験に対する準備も万全の体制で取り組んでいることと思う。あるいは、就社の意識から目覚め自分なりの技術を身に付けて独立の気概に燃えている学生もいることだろう。さて、皆さんがある企業に就職しようと考えたとする。企業の人事担当者はどのように皆さんの中から「この人は」と思う人物を選んでいるのだろうか。わずか15分か30分の時間で多くの希望者の中から選ばなければならない担当者。めぼしい人物にはよいところを引き出す質問をし、企業のどこに座りがいいか考えているかもしれない。一方、どうもダメそうだなと思う人物にはそれを再確認する意味の質問をし、判断に間違いがないか考えているのだろうか。仮に一生涯その企業にいることになれば、数億円という金額の支出を考えておかなければならない。今、面談している学生にその価値があるか。
 どのような人物が好ましいかを考えるため、話を進めて、仮に皆さんが企業に雇われたとする。例えば技術者として。毎日設計図とにらめっこだろうか。プログラムやテストのため朝から晩までコンピュータにかじりつきだろうか。そのスキルがあれば、少々仕事の関係者とうまくやれなくてもいいのだろうか。あるいは、セールスの人は売り上げが多ければいいのだろうか。大学では試験の成績がいいことが善であった。だから、スキルがまず必要と思うかもしれない。しかし、それは違う。全く無ければ話にならないが、普通にあれば、まずその人が誰を見て仕事をしているか、それがその人が評価される大きな要素になる。社会は人で構成されている。企業と企業が関わり合うとき、必ず企業を代表する人としての接触が必要になる。あるいは、部署間での接触も同様である。人は誰のために働くか、その姿が正しければ企業は成長する。世の荒波を直接受ける企業は、その正しさを常に自問しなければ淘汰される。だから、企業は何のために働くかが分かっている人が欲しいはずなのだ。セールス担当者が、朝突然訪ねてきて聞きたくもない情報を流すとする。遠くから来たので追い返すわけにもいかないので聞くには聞くが、その「人」の姿勢は疑われ、商品そのものまで信用できなくなる。めったに姿を見せないセールス担当者がいて、情報が欲しいなと思ったときに電話すると、こちらが考えているとおりのことを具体的に示してくれるとする。彼には思わず仕事を任せたくなる。同時に、その企業も信頼するだろう。そういうものだ。小さくても大きくても「企業は人なり」なのである。
 話をもとに戻して面談の情景に戻ろう。入社後、働く意味を深く考えている姿を、今目の前にいる人に、期待できるのだろうか。私が人事担当者ならそういうことを考えて質問しているだろう。では、少ない時間の面談で、人事担当者どのようにしてそれを感じ取るのだろうか。簡単である。大切な人を家に招待したとき、あなたは何をするだろう。家をきれいにする、ご馳走を作る、好みの話題を用意する、などいろいろあるが、一言で言えば準備をするはずだ。それも周到に。相手は、その準備の程度で自分への思いの深さを感じ取る。だから、企業研究にもっと時間をかけなさい。企業はその姿勢こそを見ている。また、このことは就職に限らない。自分と接する人を大切にしなさい。そして相手が何を望んでいるか敏感になりなさい。相手があってこそ自分があるのだから。さて、就職にまだ時間の余裕がある人は[4]も参考にするといいと思う。
[1] http://wwwwp.mext.go.jp/jyy2000/index-145.html
[2] http://www.jil.go.jp/kisya/syokuan/991112_01_sy/991112_01_sy_zu.html
[3] http://www.kyutech.ac.jp/top/admission/shinro/index.html
[4] http://hirose.ces.kyutech.ac.jp/genki.html